2024 Amendment
改正建設業法(令和6年法律第49号)——もう全部効いています
「標準労務費」と呼ばれて話題になった改正は、3回に分けて施行され、令和7年12月12日で全部そろいました。契約と見積りのたびに関係します。
改正建設業法は令和6年9月1日・令和6年12月13日・令和7年12月12日の3回で施行され、2026年9月時点ではすべて施行済みです。中身の中心は、中央建設業審議会が作る「労務費に関する基準」(法34条2項)と、それを下回る著しく低い労務費での見積り・契約の禁止です。建設業者は、原価割れの受注や著しく短い工期の受注そのものも禁じられました。見積書は材料費・労務費などの内訳を書く材料費等記載見積書(法20条1項)が基本になり、作ったら打合せ記録と一緒に引渡しから10年保存します。下請だけの会社も対象です。
結論——3回で施行され、全面施行は令和7年12月12日
正式な名前は「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第49号)です。公布は令和6年6月14日。施行日は政令で3回に分けて決められました。
| 施行日 | 主な中身 |
|---|---|
| 令和6年9月1日 | 中央建設業審議会が労務費に関する基準を作成・勧告できるようにした(法34条2項)。国土交通大臣による取引の実態調査と公表(法40条の4) |
| 令和6年12月13日 | 契約書に価格変動時の変更方法を書く(法19条1項8号)。おそれ情報の通知と変更協議(法20条の2)。処遇確保の努力義務(法25条の27第2項)。ICT活用の努力義務(法25条の28)。監理技術者等の専任の合理化(法26条3項)と営業所技術者等の現場兼務(法26条の5) |
| 令和7年12月12日(全面施行) | 建設業者による原価割れ契約の禁止(法19条の3第2項)と著しく短い工期の禁止(法19条の5第2項)。材料費等記載見積書と、見積りの値下げ要求の禁止(法20条) |
全面施行日は、令和7年11月14日に閣議決定され同月に公布された政令で、令和7年12月12日と定められました。基準を作る権限が最初に動き、基準を使う義務が最後に動く順番になっています。
出典:国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」 https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00033.html /報道発表「建設業法等改正法が完全施行されます」(令和7年11月14日) https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00317.html(いずれも2026年9月23日確認)。
労務費に関する基準——誰が作り、何を示すか
世間では「標準労務費」と呼ばれますが、この言葉は建設業法にも施行規則にも出てきません。条文上の名前は「労務費に関する基準」です。根拠を調べるときは、こちらの名前で探してください。
「中央建設業審議会は、……建設工事の標準請負契約約款、建設工事の工期及び労務費に関する基準、入札の参加者の資格に関する基準並びに予定価格を構成する材料費及び役務費以外の諸経費に関する基準を作成し、並びにその実施を勧告することができる。」
- 作成日……令和7年12月2日、中央建設業審議会が作成し、実施を勧告しました
- 対象……国土交通省の運用方針は、公共工事か民間工事かを問わず、下請取引を含むすべての段階の請負契約で適正な労務費を確保するためのもの、としています
- 基準値の出し方……職種分野ごとに労務単価(公共工事設計労務単価、1人1日あたり)× 歩掛(単位施工量あたりの人日)で、施工量あたりの労務費として国土交通省が示します
- 使われ方……著しく低い労務費での見積り、値下げの依頼、原価割れ契約について、行政が指導・監督するときの参考指標にもなります
基準値は職種分野ごとに追加・更新され、運用方針も令和8年6月に改正されています。金額は、使う日に国土交通省「労務費に関する基準ポータルサイト」(https://roumuhi.mlit.go.jp/)で確かめてください。また、基準値に法定福利費の事業主負担分は含まれていない点に注意が要ります(見積書では別の項目として書きます。次の節)。
出典:国土交通省「労務費に関する基準」 https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00044.html /「『労務費に関する基準』の運用方針(令和7年12月、令和8年6月最終改正)」 https://roumuhi.mlit.go.jp/mlit-files/20260325_02.pdf(いずれも2026年9月23日確認)。
著しく低い労務費・原価割れ・短すぎる工期の禁止
改正のいちばん大きな変化は、受注する側にも禁止がかかったことです。これまでは「注文者が買いたたくこと」を禁じていましたが、令和7年12月12日からは建設業者が安く請けること自体も禁じられています。
| 条文 | 誰に | 何が禁止か |
|---|---|---|
| 法19条の3第1項 | 注文者 | 取引上の地位を不当に使って、原価に満たない請負代金で契約すること(以前から) |
| 法19条の3第2項 | 建設業者 | 正当な理由なしに、通常必要な原価に満たない金額で請けること(新設) |
| 法19条の5第2項 | 建設業者 | 通常必要な期間より著しく短い工期で請けること(新設) |
| 法20条2項 | 建設業者 | 見積書の材料費等を、通常必要な額より著しく低く書くこと |
| 法20条6項 | 注文者 | 見積書の材料費等を著しく下回らせるような変更を求めること |
「正当な理由」は3つだけ
原価割れでも許されるのは、施行規則13条の11が挙げる次の場合に限られます。「受注がほしいから」「次の仕事につながるから」は入っていません。
- 自社で持っている安い資材を使えるとき
- 先端技術や蓄積した技術・技能で原価を下げられるとき
- 緊急の必要その他やむを得ない事情があるとき
違反するとどうなるか
これらの条文に直接の罰則はありません。けれども、建設業者の違反は法28条1項の指示処分の対象で、指示に従わなければ営業停止へ進みます。発注者が法20条6項に反して値下げさせた見積りで契約したときは、その建設業者の許可行政庁が発注者に勧告し、従わなければ公表できます(法20条7項・8項)。勧告の対象は、通常必要な費用が500万円以上(建築一式は1,500万円以上)の契約です(建設業法施行令6条の2。令和7年11月14日の国土交通省発表で確認)。
受注者側の2つの禁止は、全面施行日より前に結んだ契約には適用されません(改正法附則2条3項)。見積書のルールは、施行日以後に交付した見積書から適用です(同4項)。区切りは工事をした日ではなく、契約日・見積書の交付日です。
材料費等記載見積書(法20条)
建設業者は、契約を結ぶにあたって、工事の種別ごとに材料費・労務費などの内訳と、工程ごとの作業・準備に必要な日数を書いた見積書を作るよう努めます。これを法律は材料費等記載見積書と呼んでいます。
「材料費等」に入るもの(施行規則13条の12)
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 材料費 | 工事に使う資材 |
| 労務費 | 技能者の賃金の原資。労務費に関する基準で相場が示されます |
| 法定福利費 | 健康保険料などの事業主負担額 |
| 安全衛生経費 | 建設工事従事者の安全と健康の確保のための経費 |
| 建退共の掛金 | 建設業退職金共済の掛金 |
条文ごとの強さ
- 作ること……努力義務(1項)
- 著しく低い額を書かないこと……禁止(2項)
- 注文者から請求されたら、契約成立までに渡すこと……義務(4項)。注文者の承諾があれば電子で渡せます(5項)
- 注文者が内容を考慮すること……努力義務(4項)
作るのは「努力」でも、作った見積書の中身には禁止がかかる、という組み立てです。
見積書と打合せ記録は10年保存
建設業者は営業所ごとに帳簿を備え、営業に関する図書を保存する義務があります(法40条の3)。令和7年12月12日から、この図書に次の2つが加わりました。
- 材料費等記載見積書を作ったときは、その見積書(施行規則26条5項4号)
- 契約前に必要に応じて作った、その見積書についての注文者との打合せ記録(同5号)
「第二十六条第五項に規定する図書……の保存期間は、請け負つた建設工事ごとに、当該建設工事の目的物の引渡しをしたときから十年間とする。」
- 下請だけの会社にもかかります。施行規則26条5項は、元請でも作成建設業者でもない建設業者についても、4号・5号の図書を保存対象にしています
- 帳簿の保存は原則5年(発注者と結んだ住宅を新築する工事は10年。規則28条1項)、図書は10年です(同2項)。期間の数え始めは工事の引渡しです
令和8年3月9日時点の国土交通省『建設業法の各基本事項や法令違反に関するよくあるご質問』は、この見積書を「建設業法第21条第1項に規定する」と書いています。材料費等記載見積書を定めているのは法20条1項で、施行規則もそう書いています(法21条は契約の保証の条文です)。保存が必要という中身は同じです。
帳簿・図書のほかの届出の期限は 届出の期限早見表 にまとめています。
価格転嫁の協議——おそれ情報の通知
資材の値上がりなどで、あとから請負代金や工期が合わなくなる。そのときに協議しやすくするため、令和6年12月13日から次のルールが動いています。
価格などが変わったときの工事内容・請負代金の変更と、その額の算定方法の定めが、契約書に書くべき事項に加わりました(法19条1項8号)
建設業者は、主要な資材の供給の著しい減少や価格の高騰など、工期や代金に響く事象が起きるおそれがあると認めたら、契約を結ぶまでに、根拠になる情報と一緒に注文者へ知らせなければなりません(法20条の2第2項)
通知した事象が実際に起きたら、工期・工事内容・代金の変更協議を申し出られます(同3項)。注文者は、根拠を欠くなど正当な理由がなければ、誠実に協議に応じるよう努めます(同4項)
注文者の側にも、地盤沈下など工期や代金に響く事象が起きるおそれを知っているときは、契約までに建設業者へ知らせる義務があります(法20条の2第1項)。
国土交通省は、根拠情報として、報道記事、資材業者の発表、公的機関などの統計資料といった客観性のある情報を挙げています。通知は見積書を渡すときなどに合わせて行い、通知書面やメールを双方で保存しておくことが望ましいとしています。
出典:国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」(前掲)/報道発表「建設業の価格転嫁、ICT活用、技術者専任合理化について……」(令和6年12月13日) https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00272.html(2026年9月23日確認)。
現場技術者の専任の合理化とICT
一定の重要な工事では、主任技術者・監理技術者は現場ごとに専任が原則です(法26条3項)。令和6年12月13日から、ICT(情報通信技術)で現場を確認できるなどの条件を満たせば、兼務ができるようになりました。
| 誰が | 兼務の範囲(令和6年政令第366号) |
|---|---|
| 監理技術者・主任技術者 | 請負代金1億円未満(建築一式は2億円未満)の工事で、2現場まで |
| 営業所技術者等 | 同じ金額の範囲で、営業所の仕事と1現場の現場技術者を兼ねられる(法26条の5) |
施行規則で決まった主な要件
- 現場間が1日で巡回でき、移動がおおむね2時間以内
- 各工事の下請次数が3次まで
- 技術者と連絡をとる者を現場に置く(土木一式・建築一式は、その工事の実務経験1年以上の者)
- 現場の施工体制をICTで確認できる措置と、現場の外から状況を見られる情報通信機器
- 人員の配置を示す計画書を作り、現場に備え、保存する
あわせて、特定建設業者には、施工管理の情報システムなどICTの活用に努める義務ができ、元請の特定建設業者は下請への指導にも努めます(法25条の28)。国土交通省はICT指針を公表しています。運用の細部は監理技術者制度運用マニュアルで確かめてください。
出典:国土交通省 報道発表(令和6年12月6日) https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00266.html /「監理技術者等の専任義務の合理化・営業所技術者等の職務の特例」 https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00038.html /報道発表(令和6年12月13日・前掲)(いずれも2026年9月23日確認)。金額と現場数は政令で変わりうるので、使う時点で確かめてください。
発注者・元請・下請で何が変わるか
| 立場 | 主に効くこと |
|---|---|
| 発注者(施主) | 材料費等記載見積書の内容を考慮する(努力義務)。見積りの材料費等を著しく下回らせる変更要求の禁止。違反して契約すると勧告・公表。工期や代金に響くおそれのある事象の通知義務。受けた変更協議に誠実に応じる努力義務 |
| 元請 | 発注者に対しては受注者として、原価割れ・短すぎる工期での受注の禁止、見積書、おそれ情報の通知。下請に対しては注文者として、値下げ要求の禁止と協議への対応。下請代金のうち労務費相当分は現金で払うよう配慮(法24条の3第2項)。特定建設業者はICT活用と下請指導の努力義務。専任の合理化を使える |
| 下請 | 受注者として、原価割れ・短すぎる工期での受注の禁止と、著しく低い材料費等を書いた見積りの禁止。求められたら見積書を渡す義務。見積書と打合せ記録の10年保存。技能者の処遇確保の努力義務(法25条の27第2項) |